――英語に舵を切る前に知っておいてほしいこと
中学受験で「英語利用」という選択肢を目にする機会が、ここ数年で一気に増えました。
英語が得意なら有利そう。4科目より負担が軽そう。そう感じる保護者の方も多いと思います。
実際、英語利用は正しく使えば、中学受験において非常に強力な選択肢になります。
しかしその一方で、「知らなかったから英語を選べなかった」「簡単に考えすぎていたために、うまくいかなかった」というご家庭の話も、決して少なくありません。
中学受験における英語利用は、正しく位置づければ強力な選択肢になりますが、
中学受験全体、さらにはその後の高校・大学への進学までを長期的に考えて取り組まないと、
大切な時間だけが過ぎ、思っていたほどの結果につながらない、ということが起こり得ます。
この記事では、中学受験における英語利用のメリットを整理したうえで、英語に舵を切る前に、必ず知っておいてほしい「落とし穴」について考えていきます。
なぜ中学受験で「英語利用」が急増しているのか
中学受験で英語利用が広がっている背景には、明確な理由があります。
それは、「英語ができる子が増えたから」という単純な話ではありません。
最大の要因は、大学受験における英語の位置づけが、ここ10年ほどで大きく変わったことです。
共通テストでは和訳や文法問題が姿を消し、文章は大幅に長文化しました。
さらに、「読む」「聞く」「書く」「話す」という4技能評価が導入されたことで、これまで測られてこなかったアウトプット力までが問われるようになりました。
その結果、大学受験においては、英語は単なる一科目ではなく、これらの変化に対応できているかどうかによって、受験全体の勝敗を左右しかねない最重要科目になっています。
こうした流れの中で、中高一貫校側においても、英語力のある生徒を、より早い段階で確保したい、
というニーズが強まっています。
その結果、英語単科入試や英検換算型、加点方式など、英語を活用できる入試方式が急速に広がりました。
つまり、中学受験における英語利用は、家庭のニーズだけで生まれたものではなく、大学入試を見据えた受験制度全体の変化と、学校側の戦略によって後押しされている側面が大きいのです。
そして、この構造を理解したうえで英語を選択できた家庭ほど、中学受験だけでなく、その先の進学まで見据えた形で、英語を有利に活かすことができています。
英語利用がうまく機能する場合のメリット
英語利用がうまく機能しているケースを見ていると、そこにはある共通点があります。
それは、中学受験のために英語を始めたのではなく、英語を続けてきた結果として、中学受験というタイミングで一度勝負をしている、という点です。
幼少期から英語に触れ、英語が好きで続けてきた。
あるいは、早い段階から英語に一定の時間と労力をかけ、積み上げてきたものがある。
そうした家庭にとって中学受験は、それまで培ってきた英語力を、一つの成果として試す場になります。
このようなケースでは、英語は受験のための科目ではなく、その子自身が自分で選んだ力として存在しています。
すでに身についている英語を、中学受験という枠組みの中でどう使うか、という話になるため、4科目という競争の激しい世界で消耗戦をするのではなく、英語が好きという自分らしさを保ったまま、中学受験に向き合うことができます。
その結果、無理にすべての教科で勝負する必要がなくなり、英語を軸に、学校選択や受験戦略の幅が広がるケースも少なくありません。
一方で注意が必要なのは、中学受験をゴールに据えて英語への投資を始めるケースです。
この場合、どうしても受験や英検が目的化しやすく、本来育てたい英語力との間にズレが生じることがあります。
この違いが、次に述べる英語利用で失敗しやすい落とし穴を生む、大きな分かれ目になります。
落とし穴①
「英語が好き=英語利用向き」だと思ってしまう
英語利用を検討しているご家庭から、よく聞く言葉があります。「英語は好きなんですが、英語利用をした方がいいでしょうか?」
一見、とても良いスタート地点に立っているように聞こえます。
実際、英語が好きという気持ちは、アカデミックな英語へ進んでいくうえで、何より大切な土台です。だからこそ、多くのご家庭が、「英語が好きなら、英語利用は向いているのでは」と考えます。
ただし、ここで一度立ち止まって考えておきたいのは、英語が好きであることと、中学受験で英語をどう使うかは、そのままイコールではないという点です。
中学受験で問われるのは、英語への興味や親しみやすさそのものではなく、その英語が、アカデミックな形へきちんと切り替わっているかどうかです。
英語が好き、という状態は、理想的な出発点です。
大切なのは、その「好き」の先に、読む・書く・論理的に考える英語へ進む準備ができているかどうか、という点になります。
中学受験で英語が評価されるとき、求められるのは初歩的ではありますが、アカデミックな英語力です。
プリスクールや英会話学校、おうち英語などで英語に親しんできた経験が土台として活きることは確かですが、中学受験で英語を使う場合には、その延長線上にある英語から、ギアを一段上げる切り替えが求められます。
日常的に英語に触れてきた子どもの英語から、読み、書き、論理的に説明することが前提となるアカデミックな英語への移行です。
「話せる英語」と「アカデミックな英語」は違う
英語が好きなお子さんの多くは、発音がきれい、リスニングに強い、会話に抵抗がない、といった強みを持っています。これらは、将来にわたって非常に価値のある力です。
一方で、中学受験の英語入試で評価されるのは、
語彙力
文法理解
長文読解
Writingによるアウトプット
といったアカデミック寄りの英語力です。
英会話で培われた力と、中学受験で求められる英語力のあいだには、思っている以上にギャップがあることがあります。
英語経験はあるのに、噛み合わないケース
実際の相談でも、英語に苦手意識はない、日常的な会話やリスニングには問題がない、それでも、模試や過去問に取り組むと、求められている力と噛み合わない、というケースは少なくありません。この違和感は、特に英検準2級から2級あたりで、はっきりと壁として表れやすくなります。
それまで順調に進んできた英語学習が、このあたりを境に、伸びている実感が持てなくなる
勉強しているのに手応えがないと感じられるようになることも珍しくありません。
これは能力の問題ではありません。
多くの場合、英語で物語を読み、内容を正確に理解すること、英語で自分の考えや意見を、筋道立てて書くこと、といった、日本語では当たり前に行っている思考を英語でどうすればいいのか、をまだ学んでいないだけです。
この段階で、英語は好きだし、できているから大丈夫。と判断してしまうと、本来必要だった切り替えのタイミングを逃し、後から軌道修正が間に合わなくなることがあります。
落とし穴②
「英検を取ること」自体が目的になってしまう
英語利用を考え始めたご家庭で、次によく起こるのがこの落とし穴です。
「まずは英検を取らせた方がいいですよね?」
英検は、中学受験においても有効な指標であり、学校によっては、英検の級そのものが合否を左右するケースもあります。その意味で、英検が一つのゴールになること自体は、決して間違いではありません。
ただし、ここで気をつけたいのは、「英検を目標にすること」そのものではなく、英検の勉強が、いつの間にか英語学習のほとんどになってしまうことです。
英検の合格だけを意識しすぎると、頻出単語を和訳で覚える、過去問演習をひたすら繰り返す、出題パターンに慣れることを最優先する、といった勉強に偏りやすくなります。
こうした勉強は、英語力を育てるという意味では、はっきり言って良くありません。なぜなら、英語を文脈で理解する力が育たず、自分で考えて書く経験がほとんど残らず、読む・書く・考える英語から離れてしまうからです。
その結果、それまで好きだった英語が急につまらなく感じられるようになったり、土台となる語彙力や読解力が十分に育たないまま、次の級で壁にぶつかってしまうケースも少なくありません。
英検は、上手く使えば非常に有効な目標です。
ただ、英検をゴールにしつつも、その先で英語が伸び続けることを見据えて、本質的な学習を並行して行う必要があります。
大切なのは、英検に受かることだけを目的にするのではなく、英検の先につながる英語力を育てながら進めることです。
落とし穴③
英語に張りすぎて、受験全体のバランスを崩してしまう
英語利用を検討しているご家庭の中には、次のような悩みを抱えるケースが少なくありません。
「英語をどこまでやるべきか、分からなくなってきました。」
この悩みが生まれる背景には、英語利用を、4科目に英語を足す話として捉えてしまっている、という誤解があります。
従来の4科目も全力で取り組み、そのうえで英語利用にも備える。
この発想のまま進むと、保護者も子どもも、途中で疲れ果ててしまいます。
本来、英語利用はそういう戦略ではありません。
英語利用の本質は、英語に時間を投資してきた人が、競争の激しい4科目の土俵から一部降り、競争の少ない場所で中学受験を終わらせる、という点にあります。これは逃げでも妥協でもなく、すでに持っている強みを、最も合理的な形で使う判断です。
英語利用は、すべてを頑張る受験ではなく、どこで勝負し、どこを手放すかを決める受験です。英語にかける時間やエネルギーを増やすということは、その分、他教科に使えるリソースを減らす、ということでもあります。
国語、算数、理科、社会。
これら4科目は、今もなお中学受験の中心であり、特に男子校を中心に、4科目でなければ受験できない学校も数多く残っています。その中で、4科で行くのか、英語を軸に行くのか、という判断は、受験戦略として非常に大きな分岐点になります。
英語利用を選ぶということは、どこかで4科の勝負から一歩引く覚悟を持つことでもあります。英語利用で失敗しやすいのは、英語そのものが原因ではありません。
問題になるのは、英語をどこまで使うのか、どの段階で方針を固めるのか、4科とどう折り合いをつけるのか、といった点を最後まで決めきれないまま進んでしまうことです。
英語利用は、やるかやらないかの二択ではありません。どの時期に、どの役割を英語に担わせるのかを決めて初めて、意味を持ちます。そして、早い段階で、英語を取る代わりに何を捨てるのかを決められるかで、お子さんにとっての英語受験の意味は大きく変わります。
失敗の原因は判断と設計の問題
ここまで見てきた落とし穴に共通しているのは、英語利用が失敗する原因は、能力の問題ではなく判断と設計の問題だという点です。
英語が得意かどうかでも、英検を持っているかどうかでもありません。
次の記事では、今回触れた内容を踏まえたうえで、英検という仕組みをどのように扱うべきかについて、もう一段踏み込んで考えていきます。
また、自分の家庭は英語利用に向いているのか、今、何を基準に判断すればいいのかを整理するために、中学受験における英語利用の全体像を整理した資料をご用意しました。英語利用のメリットと落とし穴、学校レベルごとに求められる英語力の現実ライン、そして親が下すべき判断のタイミングまでを、一本の流れでお伝えします。
記事を読み終えた今だからこそ、一度立ち止まって整理するための材料として活用してみてください。