――親が下すべき「3つの決断」のタイミング
ここまで、第1弾で英語利用の「落とし穴」を、第2弾で目指すべき「学校レベルと英語力の現実ライン」について考えてきました。
最終回となる第3弾では、「いつ、何を判断すればいいのか」という具体的なタイムラインについて考えていきます。
中学受験の英語利用で失敗しないために、最も重要なことが一つあります。それは、「英語学習のスケジュール」を立てることではなく、「親の決断のタイミング」を決めておくことです。
子どもがいつまでに何級を取るか、ではありません。親がいつ、どの段階で、どちらに舵を切るかを判断するか。この決断を、先送りせずに下せるかどうかが、英語利用の成否を大きく左右します。
ここでは、中学受験までの時間を4つのフェーズに分け、それぞれの時期に親がすべき判断と、その考え方を整理します。
フェーズ① 低学年〜小3
英語の耳と、英語で読むイメージを育てる時期
まだ本格的な受験勉強が始まる前のこの時期。多くのご家庭が、「今のうちに英検の級を進めておかなければ」と焦ってしまいます。
しかし、ここで本当に必要なのは、英検の合格証書を集めることではありません。この時期の最大のミッションは、「英語を嫌いにさせないこと」。そして、英語の音と文字を自然につなげていくことです。
具体的には、Phonicsを通じて英語の音の仕組みに触れること。絵本を通じて、英語を読むときのイメージをつくること。テキストやドリルを使った勉強ではなく、英語の耳と、英語で物語を感じる力を育てる時期です。
英会話やプリスクールで培った「聞く・話す」力がある子なら、その力を活かしながら、少しずつ文字の世界へ橋を架けていくことができます。
「英語は楽しい」という気持ちを維持したまま、英語に親しむ経験を積めるかどうか。ここが、高学年以降に英語を武器にできるかどうかの、最初の分かれ目になります。
この時期に無理な英検対策を詰め込み、英語が「勉強」になってしまうと、一番の強みであるはずの「英語が好き」という土台が崩れてしまいます。
フェーズ② 小4〜小5夏前
「この子は4科型か、英語型か」を見極める時期
小4になると、進学塾での学習が本格化します。ここで初めて、「英語と4科目の両立」という現実的な壁にぶつかります。
この時期に親がすべきことは、英語を止めるか続けるかを決めることではありません。考えるべきは、もっと根本的な問いです。
この子にとって、4科で勝負するのが自然なのか。それとも、英語を活かす受験の方が自然なのか。ここを見極めることが、このフェーズで親がすべき最も大切な判断です。
4科目の学習が始まると、宿題に追われ、生活が圧迫される場面が出てきます。そのとき、「英語の時間を減らせば楽になる」と考えたくなるのは当然です。
しかし、ここで安易に英語を止めてしまうことには、想像以上に大きなリスクがあります。特にまだ英語を本格的に始めていないご家庭では、このリスクは見えにくいかもしれません。
しかし、11歳、12歳という時期は、英語の音を聞き取り、吸収する力が最も高い時期でもあります。この聴覚発達の黄金期に、英語の学習を2年間まるごと止めてしまうと、その機会は二度と同じ形では戻ってきません。
もちろん、すべての家庭が英語利用を選べるわけではありません。英語利用が現実的な選択肢になるのは、海外での生活経験がある、家庭の中に英語を使う環境がある、あるいは、小さい頃から英語に時間をかけてきた、といった背景を持つご家庭です。
そうした土台がある家庭にとって、このフェーズは、無理に両方を伸ばそうとする時期ではなく、お子さんの適性と、家庭のリソースを冷静に見つめ、どちらの道が自然かを判断する時期です。
フェーズ③ 小5夏〜秋
最も大きな決断を下す時期
中学受験の英語利用において、最も重要なのがこのタイミングです。
小5の夏から秋にかけて、親は一つの大きな決断を下す必要があります。英語を主軸にして受験するのか。それとも、4科を主軸にして、英語は加点要素として使うのか。この判断を曖昧にしたまま、「4科目も頑張るし、英語も上を目指す」という状態で小6に突入するのが、一番危険なパターンです。
そして、この決断ができるのは、それまでに英語の準備を積み重ねてきた家庭だけです。英語利用という選択肢は、この時期に突然現れるものではありません。フェーズ①②で積み上げてきたものがあるからこそ、ここで選べるようになるのです。
プランA:英語を主軸にする
すでに英検2級以上を取得しており、アカデミックな英語にも対応できている場合です。
この場合、思い切って4科目の負担を減らす判断をします。理社を削る、2科受験に絞る、英語1科入試を第一志望にする。英語という明確な強みがあるからこそできる、「選択と集中」の戦略です。
英語入試で独自問題を課す上位校を本気で狙いに行く。第2弾で書いたレベル①②の学校群を見据えた選択です。
プランB:英語を加点要素として使う
英語は好きだが、独自試験で戦えるレベルにはまだ距離がある。あるいは、4科目の方に伸びしろを感じる。そういう場合です。この場合、基本路線は4科勝負です。英語は、英検の級を早めに確保しておき、加点型の学校で活用する。
ここで大事なのは、プランBを選んだなら、英語にいつまでも時間をかけ続けないことです。英検の級を取るべきタイミングで取り、そこから先は、できるだけ早く4科に集中する。
4科で上位校を狙うという判断をした以上、あれもこれもは通用しません。英語は「持っている資格」として受験時に使い、日々のリソースは4科に全振りする。それがプランBの本質です。
いずれにしても、この決断を小5の間に下すことが重要です。小6になってから方針転換しようとしても、時間は残されていません。
フェーズ④ 小6
志望校に照準を合わせる時期
方針が決まれば、やるべきことははっきりします。ただし、プランAとプランBでは、この時期の過ごし方がまったく異なります。
プランAの場合
英検対策はもう終わりです。志望校の過去問に特化した対策へ、完全にシフトします。
学校によって、記述の多さも、求められる語彙のレベルも、出題されるテーマの方向性も異なります。英検という汎用的な試験から、志望校という具体的なターゲットへ、照準を合わせ直す時期です。
ここで問われるのは、第2弾で書いた「中身のある英語力」です。和訳ラベルで覚えた語彙ではなく、文脈の中で使える語彙。型を埋めるだけのライティングではなく、自分の考えを論理的に組み立てて書く力。それがあるかどうかが、志望校の過去問に向き合ったときに、はっきりと表れます。
プランBの場合
直前期まで英語に時間を割いてはいけません。
国語や算数の1点が合否を分ける世界に戻り、英語はあくまで「持っている資格」として活用します。4科に集中すると決めた以上、この時期に英語の勉強を再開する必要はありません。
英検の級は、出願時に加点として機能します。それ以上の役割を、この時期の英語に求めないことが、プランBを選んだ家庭にとって最も合理的な判断です。
最後に
全3回にわたり、中学受験における英語利用について考えてきました。
英語利用は、うまく使えば、お子さんの可能性を大きく広げる選択肢になります。しかしそれは、「英語さえできれば何とかなる」という魔法の杖ではありません。
大切なのは、お子さんの英語力と適性を客観的に見極め、「いつ、どこで勝負するか」「何のために英語を使うのか」を、親が情報を集めたうえで判断することです。
英語を教えるのは、プロや先生の役割です。しかし、お子さんの状況を最も近くで見つめ、「ここは英語を軸に進む」「ここは立ち止まって4科に集中する」という決断を下せるのは、親だけです。
お子さんの隣で、進むべき道を一緒に考える。その判断の材料として、この3本の記事が少しでも役に立てば幸いです。
レベル分けと判断のタイムラインを整理するために
そして最後に。
ここまで読んでもまだ、「自分の家はどう判断すべきか迷う」「プランAで行ける実力があるのか不安」という方もいらっしゃると思います。
そこで、中学受験における英語利用の全体像を整理した資料をご用意しました。英語利用のメリットと落とし穴、学校レベルごとに求められる英語力の現実ライン、そして親が下すべき判断のタイミングまでを、一本の流れでお伝えします。
お子さんの未来を考える材料として、活用してみてください。